
かつて団体で五輪連覇を果たした「複合ニッポン」。平昌(ピョンチャン)五輪では渡部暁斗(北野建設)の個人戦が有望だ。2014年ソチ五輪個人ノーマルヒル(NH)と17年世界選手権個人ラージヒル(LH)で銀メダル、今季はワールドカップ(W杯)4連勝で、調子も上向く。強さの秘密は、鋭い足裏感覚に裏打ちされた抜群のバランスだ。
複合は前半の飛躍(ジャンプ)、後半の距離の2種目で競う。1990年代に五輪で連覇した団体日本は飛躍でリードを作り、距離で差を縮められても逃げ切るのが勝ちパターンだった。
もともと飛躍が得意な渡部暁は、個人で10キロ・メートル走る後半の距離も強い。終盤8~9キロ地点までもつれる接戦でも、勝ちきるスタミナがある。その理由は、余分な力を使わずに温存する「エコ走法」にある。
雪面に沿う卓越した足裏間隔で雪面 真上から
スキーは板と雪面の接地面積が広いほど、よく滑る。エッジが浮いていたり、雪に突き刺さるような状態では加速しにくく、体力の消耗が激しくなる。距離ではスキー板はできるだけ雪面と平行に保ち、接地面積を増やすことが望ましく、スキー板を真上から強く踏み込む必要がある。
それを実現するのが渡部暁の卓越した足裏感覚だ。五輪団体連覇のメンバーで北野建設スキー部の荻原健司ゼネラルマネジャー(48)は「足裏のセンサーが非常にうまく機能している」と明かす。エネルギーを無駄に消費しないエコ走法が実現できる秘密だ。
渡部暁は足裏の鋭い感覚を養うため、オフシーズンには、綱渡りのように張ったテープ(ライン)の上を歩くスポーツ「スラックライン」をトレーニングに取り入れた。テープの幅は数センチと狭く、左右に揺れるテープは数メートル歩くのも難しい。
渡部暁はバランスを取りながら足裏でテープを押さえ、約20メートルも歩けるという。荻原さんは「雪面を常に滑走面全体で押さえ続ける訓練になっている」と話す。足裏でしっかり雪面を押さえられると板がよく滑り、1歩あたりの滑走距離が伸びる。結果的に余分な力を使わず、少ない歩数で長距離を移動できるというわけだ。
距離ではストックさばきも重要な要素だ。選手はストックを雪面につき、腕で押し出した力を前に進む力に変えている。体幹が強くなければ腕で押し出して得た力が抜けてしまい、大きな推進力にならない。渡部暁はストックをうまく使い、効率よく推進力に変えていると評価する声が多い。
飛躍は安定した飛型に定評があり、失敗が少ない。
飛躍は、ジャンプ台を飛び出すタイミングをつかむことが大事だ。全日本スキー連盟のジャンプチームヘッドコーチで北野建設の横川朝治監督兼チーフコーチ(51)は、飛ぶ瞬間より少し手前から足に力を加え始めるよう、選手を指導している。瞬間的に強く蹴る踏み切りは、タイミングを合わせるのが難しいためだ。
横川さんは、前回ソチ五輪やW杯で選手がジャンプ台を飛び出す瞬間の姿勢を約900パターン分析し、斜面と足首、足の付け根が作る角度が82度の時に飛距離が最も伸びることに気づいた。
助走中に前から空気抵抗を受ける選手の体が、踏み切りの瞬間に上方向に飛び出す最適の角度とみられる。うまく踏み切り、揚力を得られれば飛距離を伸ばしやすい。横川さんは「渡部暁の調子が悪かった頃は角度が浅く飛距離が伸びなかった。近年は82度に近く安定している」と明かす。
渡部暁のバランス感覚は夏場、スラックラインの他に、湖面で板状のボートに立ち乗りする訓練でも養われている。ボートの上で飛躍の助走の姿勢から跳んだり、着地する時の「テレマーク姿勢」を入れて降りたりしている。こうした訓練も飛型の安定や距離の強さにつながっているようだ。
「スキーの操作や体の使い方を極めていく」と貪欲に話す渡部暁。複合ニッポン復活の期待を背負う。
荻原さんは平昌五輪の試合会場は飛躍、距離とも渡部暁に向いているとみる。
荻原さんによると、渡部暁の生まれ故郷である長野県白馬村のジャンプ台と平昌五輪の台は、形が似ているという。
白馬の台は助走路の直線部分が長く、踏み切り動作に入る部分の曲線の半径が比較的小さい。ソチなど最近建設されたジャンプ台は直線部分が短く、半径は比較的大きいが、平昌の台は白馬に近いそうだ。
平昌の台は踏み切り後、選手が斜面から大きく離れて高く飛ぶのも特徴で、これも白馬型だ。最近の台は飛行中の選手と斜面の距離が近く、バランスを失うと修正が難しい。
距離はアップダウンが多いコースだが、渡部暁のエコ走法は厳しいコースが有利に働く可能性がある。荻原さんは「距離に強い欧州勢と競り合っても、ひけを取らないはずだ」と話す。(2018年2月11日読売新聞朝刊より)
距離も飛躍も 強さ生むバランス感覚…[超人の科学]平昌五輪・ノルディック複合 - 読売新聞
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