
「千両みかん」という古典落語がある。季節外れの夏にミカンが食べたくなった大店(おおだな)の若旦那のために、番頭がいくつもの問屋を巡り探すが、なかなか見つからない。ある問屋の蔵でようやく一つのミカンを見つけ、買おうとするが、なんと値が千両――。
ついこんな噺(はなし)を思い出してしまうのが、和歌山県海南市の下津地域でつくられる「蔵出しみかん」である。あえてすぐに出荷しない。蔵に収め、タイミングを待って出荷する。
12月は、農家が貯蔵庫に収め始める時期だ。貯蔵庫で寝かせたミカンは、翌年の1月中旬から出荷される。夏までとはいかないが、「蔵出しみかん」は主に3月まで楽しめる。
11月28日、今季初めて蔵にミカンを収めた農家の畑を訪ねた。畑の中にある蔵には、ミカンの爽やかな香りが漂う。ミカンが入った木箱を、小屋の中の棚に収める作業を続けていた。
「採れたてのものをそのまま食べても、当然ですがおいしい。甘みや爽やかな酸味、独特のうまみが味わえます」と話すのは、JAながみねしもつ営農生活センター調査役の土谷賢太郎さん(37)。
ただし、すぐに市場に出さないのが「蔵出し」の名のゆえん。「寝かせておくことで余分な水分が抜け、甘みがぐっと増す。酸味もまろやかになり、甘みと一体化するんです」
もちろん、ただ寝かせておけばいいというものでもない。農家は出荷まで毎日、品質のチェックをしながら、貯蔵庫の空気の入れ替えやミカンを入れる箱の交換などの作業をこなす。
「蔵出し」と名乗るために、貯蔵の方法にも決まりがある。貯蔵庫は木造で土壁には畑の粘土を使い、その厚さは約20センチメートル。こうすることで、貯蔵庫の温度や湿度を一定にできるという。
蔵出しには、もう一つ意味がある。市場に出回る時期を若干ずらす、ということだ。一気に多くのミカンが店に並ぶのを避け、出回るシーズンを長引かせる狙いもある。
機械による冷蔵や保湿ができるようになった今でも、この「作法」は守られている。JAによると、こうした仕組みは400年ほど前から受け継がれているという。
蔵出しだけでなく、ミカン畑がある山の斜面に雑木林を残し水源を維持する機能などが評価され、2019年に「下津蔵出しみかんシステム」の名で日本農業遺産に認定された。関係団体はさらに、世界農業遺産の認定も目指している。(寺沢尚晃)
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〈下津蔵出しみかん〉出荷時の状況や等級で価格は変わる。しもつ営農生活センターの土井利春センター長は「今年の暑さで十分な甘さが出た」と話す。和歌山県海南市重根西2丁目にあるJAながみねのファーマーズマーケット「とれたて広場」や県内外のスーパーマーケットで購入できる。問い合わせはとれたて広場(073・487・0900)。
すぐ出さずに甘みぐっと酸味まろやか 下津の「蔵出しみかん ... - 朝日新聞デジタル
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